■「有害」規制法案・条例の状況

 

富山県青少年保護育成条例


<1>

1.『北日本新聞』2006年10月31日付3面に掲載された「ネットの有害情報規制 県青少年問題協 保護育成条例改正へ」という記事によると、富山県青少年問題協議会は「県青少年保護育成条例改正案」の基本方針を決めたという。自殺や犯罪手法の解説などを規制対象とするほか、フィルタリングの活用、漫画喫茶などへの深夜立入制限を規定するという。県は2月議会への提出を目指すという。

 

2.五十嵐務議員(自由民主党)は2006年6月22日の県議会予算特別委員会において、県青少年保護育成条例について質問している。五十嵐議員は、深夜営業店やインターネットを介した青少年の犯罪被害が増加しているとして、「青少年保護育成条例の改正の必要性を厚生部長はどのように考えておられるのか」と質問。厚生部長は「先般開催いたしました富山県青少年保護育成審議会におきまして、青少年を取り巻く今日的な課題に適切に対応するための考えられる規制項目あるいは規制内容などについて、幅広い御意見をいただいたところ」と述べるとともに、「今後、関係団体等の意見なども伺いながら、条例改正の必要性や改正する場合の内容等について検討してまいりたい」という考えを示していた。(2006/11/6 07:00)

 

<2>

 富山県は「富山県青少年保護育成条例の一部改正(素案)の概要」について意見を募集している。公表された資料によると、「有害図書、有害情報等への対応の強化」「青少年の深夜外出の抑止」「非行、犯罪につながる行為への対応の強化」を図るという。具体的には、(1)自動販売機の定義明確化、(2)個別指定要件への「自殺」と「犯罪」の追加、(3)区分陳列基準の設定、(4)青少年のインターネット利用に関する努力義務の新設、(5)カラオケ店、インターネットカフェ、漫画喫茶への青少年の深夜立入の禁止、(6)生セラ・スカウトの禁止などが予定されており、(7)罰則(罰金の額)の見直しも行うという。規制強化以外では、富山県青少年問題協議会を廃止し、富山県青少年保護育成審議会に統合するという。意見の募集期間は平成18年12月28日(木)~平成19年1月19日(金)。資料や意見の提出方法は次のページで確認することができる。

▼「「富山県青少年保護育成条例の一部改正(素案)」に対する意見募集について」

http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1201/kj00004583.html

(2006/12/29 07:20)

 

【関連情報】

 安光裕子「有害図書と青少年健全育成条例」『図書館学』2001年3月号によると、富山県は鶴見済『完全自殺マニュアル』(太田出版、1993年)を「有害図書」に指定しているという。素案の概要には「自殺又は犯罪を誘発するような図書等を有害図書等として指定できるようにします」とあるので、『完全自殺マニュアル』はまったく別の理由で規制されたことになる(同様の問題は秋田県などでも生じている)。

 もっとも、指定要件に「自殺」が明記されている場合でも、都合の良い解釈がなされている。たとえば2005年7月に同書を指定した愛知県では、指定を決めた愛知県青少年保護育成審議会において、「この手の本が自殺の理由になったケースがあるのか」という質問が出ている。事務局は「ケースはございます」と回答し、委員が「実例があったというのは自殺した人の家にこの本があったということか」と確認すると、「そうです」と答えている。

 だが『読売新聞』2006年10月20日付夕刊23面に掲載された「いじめ自殺99年~05年度統計 遺書あっても「ゼロ」 「因果関係不明」 教委報告せず」という記事によれば、教育委員会は遺書にいじめを受けたことが記されていても「因果関係が認められない」などの理由で、文部科学省に報告していないケースがあったという。一方が自殺の理由としてやり玉に上げられるのに対し、他方は自殺との関連が無視、軽視されるのはどういうことなのだろうか。教育委員会などは責任回避のために、図書が自殺を誘発しているというストーリーを作りたいのかもしれない。(2006/12/29 07:40)


もどる