■東京都青少年条例騒動の歴史

 

2000年:出版倫理協議会による流通規制

1.全国的な流通規制

 宝島社の雑誌『DOS/V user』『遊ぶインターネット』は2001年1月発売号から全国の書店・コンビニでの販売が困難となった。宝島社はホームページ上で、帯紙措置の対象となったために「流通業者は、出版倫理協議会(自主規制団体)の35年前に定められた規定に基づき、不扱い措置(仕入れることをしない雑誌)が2000年12月12日に決定しました。そのため事実上、今まで皆様が購入されていた店頭(全国書店・コンビニエンスストア)購入が不可能となりました」と発表。

 

 さらに「東京都条例にもかかわらず、全国的に配本できないことに非常な憤りを感じます」と自主規制への不満も表明した。この問題について出倫協を構成する日本出版取次協会は2001年2月1日、青少年育成国民会議が主催した懇談会で「東京都だけで指定されたものを他県では指定されていないから、そちらには流通させていいのではないかという考え方も当然あった」が、「これは今後改善しない限りは流通させないということを毅然とした態度で行った」と説明している。(つづく)

<帯紙措置に関する出倫協構成団体※の説明>

引野喜三・日本出版取次協会倫理委員長

「取次の基本的な対応だが、先日あったような事例では、『宝島』から出されたCD-ROMつきの出版物が東京都の指定に3回連続指定された。こういうときに、東京都だけで指定されたものを他県では指定されていないから、そちらには流通させていいのではないかという考え方も当然あったわけだが、出版倫理協議会の中でどうすべきかという方向を定めていろいろ検討し、これは東京都の指定を基準にして、毅然とした対応をすべきであるという方向が出たものについては、出版社に、これは今後改善しない限りは流通させないということを毅然とした態度で行った」(社団法人青少年育成国民会議編『平成12年度「青少年と社会環境に関する中央大会」報告書』29頁)

渡辺桂志・日本雑誌協会事務局主任

「先ほど実名が出たのでお話しすると、宝島社というのは実際にアウトサイダーで、私どもの4団体の加盟社でもないし、出版問題懇話会の加盟社でもない。先ほど「帯紙措置」という話しをしたが、この措置というのは、あくまでもアウトサイダーを含めた措置なので、この自主規制には全部該当する。東京都で3回連続、年通算5回になったものは、アウトサイダーであろうが何であろうが、すべて自主規制に該当するということ」(同上38-39頁)

※ 出版倫理協議会は日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会の4団体により構成されている。

(2012/4/26 06:00)

2.出倫協に有利な審査プロセス

 それでは出倫協が他の道府県ではなく、東京都を基準にしたのはなぜだろうか。永江朗「出版社と有害図書のデリケートな関係」『有害図書の世界』(メディアワークス、1998年)、60-64頁によると、ある出版社幹部は「東京都を基準にしているのは、審査のプロセスが明確で合理性があるから。東京都の場合は、行政の人間だけでなく、学識経験者も交えて審議し、何段階かの論議を経て有害図書を指定していく」ことから、厳格な審査プロセスが理由だと答えている。

 

 また「出版社や取次など出版業界側の人間も参加してチェックしている」ので、「出版業界としても尊重すべしということ」らしい。ただ、東京都の審査プロセスに関与しない「アウトサイダー」にも帯紙措置は適用される。一方、東京都が諮問候補図書について意見聴取(いわゆる「打合せ会」)を行う自主規制団体メンバー18名のうち、出倫協関係者は13名を占めている(2008年10月1日現在)。穿った見方をするなら“出倫協に有利”なので東京都を基準にしたとも考えられる。(つづく)

 

<自主規制団体メンバー(2008年10月1日現在)>

日本書籍出版協会 2名

日本雑誌協会 5名

日本出版取次協会 3名

東京都書店商業組合 3名

出版倫理懇話会 1名

首都圏新聞即売懇談会 1名

東京都古書籍商業協同組合 1名

東京都貸本組合 1名

日本フランチャイズチェーン協会 1名

計18名

 

<「打合せ会」に関する証言>

 宝島社の「不健全」指定取消請求訴訟では不透明な「打合せ会」の一端が明らかにされている。東京都の元女性青少年部副参事は2002年9月4日に行われた口頭弁論で「結論において、反対意見が出たけれども審議会にそのまま挙げてるわけですよね」という質問に対し、「ええ、ほとんどはそうですね。ただし、挙げない場合もあります」と答えている(速記録より)。

 「東京都で3回連続、年通算5回になったものは、アウトサイダーであろうが何であろうが、すべて自主規制に該当する」としても、審議会へ諮問されなければ指定されることもない。この点において、「打合せ会」で反対意見を述べられる出倫協とその機会のない「アウトサイダー」が公平であると言えるだろうか。

(2012/5/2 06:00)

3.“影響力”の正体

 理由は何であれ、出倫協が東京都を基準にした結果、「出版業界で重視されているのはこの東京都条例のみ。なぜならその“影響力”が他の道府県とは違うからだ」(斉藤直隆、島吉誠「青少年保護条例VSアダルト雑誌の攻防」『編集会議』2002年8月号、52-55頁)という意識が定着した。ここで帯紙措置の内容を理解していないと、東京都条例が“影響力”をもっているかのように見える。だが既に明らかなように、全国的な流通規制の正体は出倫協による自主規制なのだ。

 

 従って、この事実を踏まえない東京都批判はすべて誤りである。たとえば東京新聞は2004年5月3日付の記事で「連続して三回指定を受けるとほぼ休刊になる」という雑誌協会担当者の話を掲載。「3回アウトなら休刊」の見出しをつけて東京都を批判した。しかし、帯紙措置の廃刊効果が問題なら当事者である出倫協を批判するのが筋である。裁判所も「不健全」指定取消請求訴訟の判決で、帯紙措置の廃刊効果を自主規制の結果と認定。東京都の関与を否定している。

 

<業界団体の加盟数(平成12年度)>

○出版倫理協議会  
 (社)日本書籍出版協会 495社(H12.12現在)
 (社)日本雑誌協会 88社(H12.12)
 (社)日本出版取次協会 40社(H12.4)
 日本書店商業組合連合会 9,406店(H12.4)
 (東京都書店商業組合) (959店)
○出版問題懇話会(後に「出版倫理懇話会」に改称) 31社(H12.12)

社団法人青少年育成国民会議編『平成12年度『青少年と社会環境に関する中央大会』報告書』(2001年)をもとに作成。

 

<業界団体別の「不健全図書」指定状況(平成14年4月~平成15年3月)>

  指定誌 冊数 冊数に占める
割合
日本雑誌協会に加盟する出版社

3誌

3冊

3.8%

出版倫理懇話会に加盟する出版社

43誌

55冊

69.6%

上記2団体に非加盟の出版社

20誌

21冊

26.6%

合計

66誌

79冊

100%

第518回東京都青少年健全育成審議会議事録をもとに作成。指定誌と冊数の関係は、同じ雑誌の1月号、2月号が指定された場合、指定誌1、冊数2とカウント。なお、出版倫理懇話会は平成14年4月から「打合せ会」に参加している。

(2012/5/15 06:00)


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