■「有害」規制法案・条例の状況

 

滋賀県青少年の健全育成に関する条例


<H16-1>

1.滋賀県は「県青少年の健全育成に関する条例」の一部改定案について意見を募集している。改定案には、「有害」図書等の閲覧や視聴を規制すること、区分陳列の方法を規則で定めること、陳列方法に関する知事の命令に違反したときは30万円以下の罰金を科すこと――などが盛り込まれている。募集期間は平成15年12月16日(火)~平成16年1月15日(木)。意見は住所、氏名、電話番号を記入し、郵便、ファクス、電子メールいずれかの方法により提出する。提出先や改定案は次のページで確認することができる。(2003/12/23)

▼「滋賀県青少年の健全育成に関する条例の一部を改正する条例要綱案に対する意見・情報の募集について」

http://www.pref.shiga.jp/public/seishonen-kenzen/

 

2.「有害」規制監視隊が提出した意見はこちらです。(2004/1/15)

 

<H16-2>

1.滋賀県は2004年2月3日、「滋賀県青少年の健全育成に関する条例の一部を改正する条例要綱案に対して提出された意見・情報とそれに対する滋賀県の考え方」を公表した。「滋賀県青少年の健全育成に関する条例の一部を改正する条例要綱案」に対しては、4人から延べ7件の意見・情報が寄せられたという。(2004/2/10)

▼「滋賀県青少年の健全育成に関する条例の一部を改正する条例要綱案に対して提出された意見・情報」

http://www.pref.shiga.jp/public/seishonen-kenzen-kekka/index.html

 

2.「有害」規制監視隊が回答を希望した①~④の項目(本文はこちら)に対する「滋賀県の考え方」および「滋賀県の考え方」に対する「有害」規制監視隊の考え方は次のとおりである。なお、枠内上段が滋賀県による意見の要約、下段が滋賀県の考え方である。(2004/2/10)

 

①審議会の委員名簿や議事録等をインターネットで公開する。

 審議会(滋賀県社会福祉審議会)の委員名簿や議事録等をインターネットで公開すべきである。
 図書等や興行、がん具等を推奨または有害指定、指定解除を行う場合や広告物の内容の変更または除去の措置命令を行う場合は、滋賀県社会福祉審議会児童福祉専門分科会図書等審査部会に諮り、意見を聴いて決定することとしております。
 本部会につきましては、滋賀県情報公開条例第6条第5号に基づき、非公開としております。
 ご意見を踏まえまして、非公開ではありますが、会議終了後には、可能な範囲におきまして、開催状況や概要等の公表に努めたいと考えます。

 「不健全(有害)」指定の適否等を判断する東京都青少年健全育成審議会は非公開である。しかしながら、東京都はインターネットで委員名簿や議事録などを公開している。滋賀県も、「可能な範囲におきまして、開催状況や概要等の公表に努めたい」と回答している以上、当然、委員名簿や議事録をインターネットで公開すべきであろう。なお、東京都や滋賀県が公開している資料は、次のページで確認できる。

▼東京の青少年

http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/index9.htm

▼滋賀県社会福祉審議会

http://www.pref.shiga.jp/shingikai/fukushi/index.htm

 

②陳列方法を命令するときは事前に審議会に諮ることを条例本則に明記する。

 陳列方法を命令するときは、事前に審議会へ諮ることを条例本則に明記すべきである。
 図書等や興行、がん具等を推奨または有害指定、指定解除を行う場合や広告物の内容の変更または除去の措置命令を行う場合は、描写表現や機能等の内容について、公正に審議する必要があることから、審議会に諮り意見を聴いて決定することとしております。
 陳列方法につきましては、陳列の状態により判断できるものであり、また、その具体的かつ明確な方法を規則で定めることとしているため、審議会へ諮る必要はないものと考えます。

 条例と規則には、次のような違いがある。「条例が議会で定立される自主法であるのに対し、規則は、地方公共団体の長がその権限に属する事務を処理するために定立する自主法である」(原田尚彦『地方自治の法としくみ(全訂三版)』、2001年、161頁)。つまり、条例は議会に諮る必要があるが、規則にはその必要がないのである。

 したがって、「具体的かつ明確な方法を規則で定めること」は審議会への諮問を省略する理由とならないばかりか、「規則で定める」すなわち行政の一存で定めるからこそ、命令の適否について「公正に審議する必要がある」のである。さらに、審議会の意見を聞いたうえで「具体的かつ明確な方法を規則で定める」としても、滋賀県は包括指定を導入している。

 包括指定の場合、具体的な雑誌名・書籍名が示されないため、「どの図書が有害図書なのかは、もはや誰も明確に知る由がなく、青少年から有害図書を隔離するという指定の目的を実現するための前提が失われてしまっている」(安光裕子「有害図書規制の現状と課題」『図書館学』第80号、23頁)という問題がある。要するに、区分すべき図書が不明確なのである。

 区分すべき図書が明確でないならば、「陳列の状態により判断」することは不可能なはずである。また、区分すべき図書が明確でない以上、陳列方法について「具体的かつ明確な方法を規則で定め」たところで意味がない。ゆえに、陳列方法を命令するときは、まず初めにどの図書を区分すべきかを「公正に審議」し、次に命令の適否を「審議会に諮り意見を聴いて決定」すべきである。

 

③メディア教育を充実させるとともに、メディア関係者を審議会委員ではなく講師に採用する。

回答なし

 メディア教育に関する意見には、回答が示されなかった。「滋賀県青少年の健全育成に関する条例の一部を改正する条例要綱案に対して提出された意見・情報とそれに対する滋賀県の考え方」には、「本条例と直接関係がないと考えられる意見・情報については、県の考え方を示していません」とあることから、メディア教育は「本条例と直接関係がない」と判断されたようである。

 一方、大阪府は、2003年3月に青少年条例を改定したさい、第8条の「府の基本施策等」に、「青少年が情報社会において自律性や自主性をもって対応できるようにするための取組を推し進めること」を追加している。そして、メディア教育についての意識調査などを行うとともに、「メディアリテラシーの教材を作ったりし、普及に努めたい」(『大阪日日新聞』2004年1月13日)という方針を示している。

 また、第24期東京都青少年問題協議会は、その答申で、「子どもに『能力』が備わっていないとして『知る自由』を制約しつつ、『知る自由』を享受できる前提となる『能力』についての教育、指導をしないままに、氾濫する情報の渦中に子どもを放置することはまったく無責任であり、また、子どもの健全な成長発達権(『教育を受ける権利』)の観点からも疑義がある」と指摘している。

 このように、青少年条例とメディア教育は極めて密接な関係にある。滋賀県が「本条例と直接関係がない」と判断したのはなぜだろうか? 規制にのみ目を奪われ、「青少年が情報社会において自律性や自主性をもって対応できるようにするための取組」や「『知る自由』を享受できる前提となる『能力』についての教育、指導」を軽視しているとすれば、あまりにも「無責任」なのではないだろうか。

 

④死を学ぶことでより良い生を考える「デス・エデュケーション」を実施し、その妨げとなる自殺条項を条例本則から削除する。

 死を学ぶことでより良い生を考える「デス・エデュケーション」を実施し、その妨げとなる自殺条項を条例本則から削除し、自殺を誘発するおそれのあるものとして有害指定した図書を解除する必要がある。

 生命の尊さ、大切さは人間における基本となる倫理規範であり、もとより人間形成、教育において最も重要なことです。
 学校教育においては、教科や道徳、特別活動をとおして、生命の尊さ、生命を大切にする心を育んでおります。
 「死」をしっかりみつめることが「生」をしっかりととらえることにもつながると考えます。
 一方で、自殺を詳細かつ刺激的に描写表現し、その手段、方法を教示する結果となり、自殺遂行の意識をうえつけるおそれがあるものについては、一般的に思慮分別の未熟な青少年に対して、引き続き規制する必要があると考えます。

 「自殺」などに関する図書を規制すべきか検討していた大阪府青少年問題協議会では、「犯罪を誘発する本や自殺の方法を詳細に記した本を子どもから規制で隠すのは、いたちごっこだと思う。幼い頃から、子どもにそれらを見せて、それらを題材に議論する教育方法が青少年の育成環境としてよいと考える」(「大阪府青少年問題協議会会議要旨(平成14年11月20日)」)という意見が出ている。

 また、滋賀県が規制している鶴見済『完全自殺マニュアル』(1993年)については、自殺という選択肢を含めることでより生きやすくなるという同書の主張に対し、「まことに逆説的な論理であるが、青年期の人々が自殺衝動を乗り越えるためには、ある時期、まさにこの逆説的な『自殺』の相対化の論理も必要なのかも知れない」(黒木俊秀、田代信維「『完全自殺マニュアル』を愛読する青年たち」『臨床精神医学』第27巻第11号、1998年、1474頁)という評価がある。

 つまり、青少年の育成環境をより良いものとし、「青年期の人々が自殺衝動を乗り越える」ためにこそ、「議論する教育方法」や「『自殺』の相対化の論理」が必要かもしれない、というのである。滋賀県も「『死』をしっかりみつめることが『生』をしっかりととらえることにもつながる」という認識は示している。しかし、実際には、自殺条項を設けるなど、「『死』をしっかりみつめること」を避けている。

 滋賀県は、「一般的に思慮分別の未熟な青少年」には、「議論する教育方法」や「『自殺』の相対化の論理」など必要ない、「生命の尊さ、生命を大切にする心」さえあれば、自殺衝動を乗り越えられる、と考えているのだろうか? 健全育成の障害となり、「自殺衝動を乗り越える」ことを妨げかねない自殺条項こそ、「自殺を誘発するおそれのあるもの」として、条例本則から削除すべきである。

 

<H16-3>

 平成16年2月滋賀県議会定例会が2004年2月23日、開会した。國松善次・滋賀県知事は、青少年健全育成条例改定案について、「有害図書等の適正な管理が行われるよう、所要の改正を行おうとするもの」と説明。改定案は3月24日に可決される見通し。(2003/2/26)

▼「平成16年2月県議会定例会 知事提案説明」

http://www.pref.shiga.jp/chiji/chijishitsu/h16_2gatsu.htm

 

<H16-4>

 滋賀県議会は3月24日、知事提出議案として提出されていた「滋賀県青少年の健全育成に関する条例の一部を改正する条例」を原案通り可決した。新条例は2004年10月1日から施行される。改定された部分は次のページで確認することができる。(2004/4/1)

▼「滋賀県における青少年条例の改定(平成16年3月改定)」

http://hp1.cyberstation.ne.jp/straycat/watch/data/jyourei/taisyohyo/shiga/H16-3.htm

 

【関連リンク】

残虐な場面を含むゲームソフトの「有害」指定にかかわる主な動き


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