■「有害」規制法案・条例の状況

 

愛知県青少年保護育成条例


<H16-1>

1.愛知県は2004年7月13日、平成16年度第1回青少年保護育成審議会を開催し、条例全般にわたる事項について、意見の聴取を行った。委員からは、古物の買取り規制について、「書籍及び雑誌を除く」という除外規定を削除することや「有害」図書類の指定基準に「自傷」という視点を入れてはどうか――などの意見が出た。

 また、瀬川忠之委員(NHK名古屋放送センター放送(制作)部長)は、「東京都では、タレントの山田邦子さんを登場させ、有害図書追放のニュースを全国に発信していた。今後、愛知県としてもこうした取組を広く県民に知ってもらうPR方法を考えていく必要がある」と述べ、「有害」図書の追放などにメディアを利用すべきだと主張した。

 これらの意見を受け、林 良三県民生活部長は、「できるだけ早く、効果のある条例に改正できるよう取り組みたい」と述べた。(2004/8/19 07:15)

【関連リンク】

▼「平成16年度第1回愛知県青少年保護育成審議会」

http://www.pref.aichi.jp/syakaikatsudo/hogo-gijigaiyo161.htm

 

2.愛知県青少年保護育成審議会は2003年7月23日、「愛知県青少年保護育成条例の指定等に関する認定基準一部改正(案)」を審議した。委員からは、「簡単に犯罪の手段がわかるものについても規制すべき」などの意見が出され、案のとおりに改定されることとなった。改定前および改定後の認定基準はこちら。(2003/8/26)

▼「議事要録 平成15年度第1回愛知県青少年保護育成審議会」

http://www.pref.aichi.jp/syakaikatsudo/hogo-giji-151.html

 

<H16-2>

 『東京新聞』2004年9月22日付「有害ゲーム規制検討 愛知県 暴力場面多いソフト」という記事によると、愛知県は21日までに県青少年保護育成条例を改定し、暴力シーンの多いテレビゲームソフトなどを規制する方針を固めたという。有識者の意見を参考に、青少年に適さないソフトを「有害図書類」に指定する方法などを検討するという。(2004/9/23 06:20)

【関連リンク】

残虐な場面を含むゲームソフトの「有害」指定にかかわる主な動き

 

<H16-3>

 愛知県は2004年11月1日に平成16年度第2回愛知県青少年保護育成審議会の開催を予定している。議題は、(1)愛知県青少年保護育成条例の運用状況等の報告、(2)第1回審議会の意見項目(古物及び自傷)について、(3)情報化社会の進展等に伴う青少年保護対策について、(4)その他――の4項目。

 県は、平成16年度第1回審議会の会議資料として、「有害図書類の陳列に係る各県条例規制状況について」や「図書類自動販売機に係る定義について」、「県内のカラオケボックス・インターネットカフェ等の実態」などを公開している。近年、(1)「有害」図書等の区分陳列基準の設定、(2)自販機の定義規定の追加、(3)青少年の深夜立入制限施設の設定などを行う県が増えていることから、愛知県が条例を改定・強化するさいにも、これらを実行する可能性が高い。

 なお、傍聴手続きなどは次のページで確認することができる。(2004/10/30 07:00)

▼「開催案内」

http://www.pref.aichi.jp/syakaikatsudo/hogo-kaisai162.htm

 

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 インターネットの「有害情報」対策などを検討している第26期東京都青少年問題協議会の第2回専門部会が2004年11月8日に開かれた。会議で配布された資料を「有害」規制監視隊が入手したところ、愛知県などがインターネットや携帯電話の規制を検討していることがわかった。

 現在、青少年条例でフィルタリング活用の努力義務などを規定しているのは大阪府、福岡県、鳥取県、福島県、奈良県の5府県。第2回専門部会資料「インターネット及び携帯電話の状況」によると、和歌山県、埼玉県、愛知県、大分県、三重県、京都府の6府県が、上記と同様な内容で、「条例の施行を予定し、又は改正の検討を行っている」という。(2004/11/15 07:50)

 

<H16-5>

 愛知県青少年保護育成条例改定案が2005年2月23日に開会した平成17年2月定例議会に提出された。条例案は3月18日に可決される見通し。(2005/2/25 06:00)

 

<H16-6>

 神田真秋・愛知県知事は2005年2月23日、平成17年2月定例県議会に提出した青少年保護育成条例改定案について次のように説明している。(2005/3/3 06:40)

 次に、愛知県青少年保護育成条例の一部改正についてであります。近年、青少年をとりまく環境は、就学前の青少年が犯罪の被害に遭う事件が発生するなど、大変深刻な状況となっております。そこで、青少年の定義を改正し、就学前の青少年も条例による保護の対象とするほか、深夜において営業する施設への青少年の入場を禁止するなど、青少年が健全に成長するための環境づくりに努めてまいります。

▼「平成17年2月定例県議会知事提案説明要旨」

http://www.pref.aichi.jp/chiji/kengikai/2005/200502.html

 

<H16-7>

 愛知県議会平成17年2月定例会で可決・成立した「愛知県青少年保護育成条例の一部を改正する条例」が3月22日に公布された。改定により、「有害図書類」の指定事由に「自殺」が追加され、知事の指定した業界団体が青少年に不適当とした図書類を「有害図書類」とする団体指定方式も導入された。また、「有害図書類」の包装義務化や区分陳列基準の設定、カラオケボックスなどへの青少年の深夜入場の禁止、生セラ・スカウトの禁止、保護者の同意を得ない書籍・雑誌の買い受け行為の禁止などとともに、フィルタリングソフトの利用を求める努力規定も新設されている。新条例は2005年7月1日から施行される。(2005/3/23 18:45)

▼「愛知県における青少年条例の改定(平成17年3月改定)」

http://hp1.cyberstation.ne.jp/straycat/watch/data/jyourei/taisyohyo/aichi/H17-3.htm

 

<H16-8>

 愛知県は2005年3月29日、3月の改定で新設された団体指定の規定に基づき、日本ビデオ倫理協会とコンピュータソフトウェア倫理機構を指定した。施行は7月1日。(2005/5/1 07:10)

【関連リンク】

残虐な場面を含むゲームソフトの「有害」指定にかかわる主な動き

 

<H16-9>

1.愛知県は2005年6月28日(火)午後3時から平成17年度第1回愛知県青少年保護育成審議会を開催する。議題は、(1)愛知県青少年保護育成条例の運用状況等の報告、(2)愛知県青少年保護育成条例の指定等に関する認定基準の一部改正について、(3)有害図書類審査(予定)などが予定されている。一般の傍聴は可能だが、「有害」図書類の審査は非公開。問い合わせ先などは次のページで確認することができる。(2005/6/28 07:30)

▼「開催案内<平成17年度第1回愛知県青少年保護育成審議会>」

http://www.pref.aichi.jp/syakaikatsudo/annai.html

 

2.愛知県は2005年3月、「愛知県青少年保護育成条例」を改定し、「有害図書類」の指定事由に「自殺」を追加している。また、県議会で残虐性のあるゲームソフトの規制が不十分だとの意見があったことから、知事の指定した業界団体が青少年に不適当とした図書類を「有害図書類」とする団体指定方式を導入している。28日の審議会では、「自殺」に関する基準の設定や「残虐性」に関する基準の見直しなどが審議されるのかもしれない。(2005/6/28 07:30)

▼「愛知県における青少年条例の改定(平成17年3月改定)」

http://hp1.cyberstation.ne.jp/straycat/watch/data/jyourei/taisyohyo/aichi/H17-3.htm

 

<H16-10>

1.愛知県は2005年7月8日、鶴見済『完全自殺マニュアル』(太田出版、1993年)ほか雑誌5冊の「有害」指定を告示した。愛知県では2004年7月に開かれた平成16年度第1回愛知県青少年保護育成審議会において、委員から「時代の流れもあるのですが、以前は想定していなかったもの、また出版業界の方も以前は「自殺マニュアル」などというものを出版することなんて想像していなかったと思いますが、条例の改正等を考えているのでしたら、青少年の保護育成を考慮すると、自傷という点も視野に入れてみてはいいのではないか」という意見があったことから2005年3月、県青少年保護育成条例を改定し、「有害図書類」の指定事由に「自殺」を追加。改定後の条例は2005年7月1日から施行されていた。(2005/7/9 07:10)

 

2.佐賀医科大学の黒木俊秀氏と、九州大学医学部の田代信維氏は『完全自殺マニュアル』と青年期自殺との関係を次のように論じている。

「『完全自殺マニュアル』のブームは、精神科臨床の現場における青年期の自殺衝動への対応の仕方を考える際にも,ある種の示唆を与えるものではないかと思われる。同書を読むと,患者の自殺は絶対に防がなければならないという医療従事者一般の強固な信念も,青年期の自殺を予防するには限界があることを示している。鶴見は,先にも引用したように,『完全自殺マニュアル』では,「自殺」という選択肢を含めることでより生きやすくなる,ということを主張したかったのであるという。まことに逆説的な論理であるが,青年期の人々が自殺衝動を乗り越えるためには,ある時期,まさにこの逆説的な「自殺」の相対化の論理も必要なのかも知れない」

(「『完全自殺マニュアル』を愛読する青年たち」『臨床精神医学』第27巻第11号、1474頁)

 愛知県青少年保護育成審議会の委員は「出版業界の方も以前は「自殺マニュアル」などというものを出版することなんて想像していなかったと思います」「青少年の保護育成を考慮すると、自傷という点も視野に入れてみてはいいのではないか」などと述べている。この委員は、「「自殺」という選択肢を含めることでより生きやすくなる」などとは、想像したことさえないのかもしれない。「青少年の保護育成を考慮する」ことと、『完全自殺マニュアル』を規制することは一体どのような関係があるのだろうか。自殺という選択肢を奪うことで青少年が生きやすくなるのだろうか。愛知県や審議会委員はなぜ、こうしたことを“想像”しないのだろうか。

 

3.『完全自殺マニュアル』については、自殺や社会について考えるきっかけにすべきだ、という意見も多い。たとえば、『完全自殺マニュアル』が出版された当時、同書で紹介されている青木ヶ原樹海で本を持った自殺者が発見されたことが話題になった。これに関連して、評論家の芹沢俊介氏は、「本によって樹海での自殺者が際立って増えることは考えられない。追い詰められた人は身の処し方を切実に考えており、一時的に樹海での自殺者が増えたとしても本の責任ではない。このような本が出てくる時代背景、社会について考えるきっかけとするべきだ」(『山梨日日新聞』1993年10月20日付朝刊)と話している。

 また、大阪・心斎橋の「自殺防止センター」所長西原由記子氏は、「息子が完全自殺マニュアルを持っていて心配」といった相談は確かにあります。しかし、著者の意図が正確に伝われば、この本が自殺を誘発することはないと思います。自殺について真正面から考えようとしない日本の傾向にチャレンジする本といってもいいでしょう。一方で、自分を持たない「マニュアル人間」が、マニュアルの表面的な「指示」にそのまま従う可能性もあります。一人ひとりが自分のペースで生きられる社会をつくることが必要でしょう」(『朝日新聞』1993年11月25日付夕刊)と話している。

 『完全自殺マニュアル』は愛知県に限らず、秋田県や神奈川県、埼玉県などいくつもの県で「有害図書」に指定されている。これらの県や指定を決めた審議会では、自殺や社会について考えるつもりなどないのだろうか。(2005/7/9 08:45)

 

<H16-11>

1.愛知県は2005年9月7日、鶴見済『完全自殺マニュアル』(太田出版、1993年)の個別指定を決めた平成17年度第1回愛知県青少年保護育成審議会の議事概要をホームページに掲載した。これによると、事務局は『完全自殺マニュアル』について、「この本のほとんどが自殺の手段等などが詳細に書かれており」、「今回の場合はあきらかに一般図書として広く販売されておりまして、非常にこれが有害であると認識しております」などと説明。また、「この手の本が自殺の理由になったケースがあるのか」という質問には、「ケースはございます」「本県の例ではございませんが、過去に2,3件あったと聞いております」などと答えている。(2005/9/9 06:30)

▼「平成17年度第1回愛知県青少年保護育成審議会会議録」

http://www.pref.aichi.jp/syakaikatsudo/hogogijiroku171.htm

 

2.「自殺」を選択肢に含めることで生きやすくなると主張する『完全自殺マニュアル』については、「青年期の人々が自殺衝動を乗り越えるためには、ある時期、まさにこの逆説的な「自殺」の相対化の論理も必要なのかも知れない」「このような本が出てくる時代背景、社会について考えるきっかけとするべきだ」「自殺について真正面から考えようとしない日本の傾向にチャレンジする本といってもいい」――などの評価がある。愛知県がこうした見方を考慮せず、また、審議会委員からもそのような意見が出なかったことは、非常に奇妙な印象を受ける。「自殺について真正面から考えようとしない日本の傾向」が影響したのだろうか。

 

3.評論家の加藤典洋氏は『朝日新聞』1995年2月12日付朝刊で、「一年ほど前、息子が買ってきた「完全自殺マニュアル」という本をのぞいたら、そのあとがきに、その本の著者が、「強く生きろ」なんてことが平然と言われてる世の中は閉塞(へいそく)してて生き苦しい、だからこういう本を流通させて「イザとなったら死んじゃえばいい」っていう選択肢を作り、風通しをよくしたかった、と書いていた。新しい思想の声がここにあると思い、そのことを当時、どこかに書いた覚えがある」と記している。公開された議事概要を読む限りでは、愛知県や審議会委員はこのような「新しい思想」について、何も考えていない、といえる。青少年の保護育成を理由に「生き苦しい」世の中に加担することで、彼らは一体何を期待しているのだろうか。自殺の理由を『完全自殺マニュアル』に求めることこそ、「非常にこれが有害であると認識」すべきだろう。(2005/9/9 06:30)

 

<H16-12>

1.中日新聞ホームページに2007年4月3日付で掲載された「18歳未満に成人向け雑誌 自販機設置、社長ら逮捕」記事によると、愛知県警少年課と犬山署などは3日、遠隔操作で年齢確認しているという自動販売機に「有害図書」を収納した県青少年保護育成条例違反の疑いで雑誌販売会社長ら2人を逮捕したという。

▼「18歳未満に成人向け雑誌 自販機設置、社長ら逮捕」

http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2007040302005779.html

 

2.愛知県は2005年3月に青少年条例を見直し、自動販売機の定義を新設している。定義は「物品を販売するための機器で、物品の販売に従事する者と客とが直接に対面(電気通信設備を用いて送信された画像によりモニターの画面を通して行うものを除く。)をする方法によらず、当該機器に収納された物品を販売することができるものをいう」というもの。これと同時に自販機への「有害図書」等の収納禁止違反に対する罰則が「30万円以下の罰金」から「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」に強化されている。

▼「愛知県における青少年条例の改定(平成17年3月改定)」

http://hp1.cyberstation.ne.jp/straycat/watch/data/jyourei/taisyohyo/aichi/H17-3.htm

(2007/4/12 07:45)

 

3.『千葉日報』2006年6月25日付19面に掲載された「“街角のわいせつ”断固撲滅 有害図書自販機県内から一掃 常習業者に猶予付懲役刑も」という記事によると、県警は昨年6月から実施した「有害図書」を収納する自販機の「ゼロ作戦」で、43件52人を摘発、撤去に応じないなどの4人を逮捕したという。このうち、モニターで監視しているとして容疑を認めなかった業者の男には「常習罪」を適用。千葉地裁は5月に懲役6月執行猶予2年を言い渡して確定しているという。このほか監視カメラ付き自販機の規制については以下の記事が参考になる。

(1)『河北新報』2005年4月14日付31面「是非?監視カメラ付きアダルト雑誌自販機 福島で設置業者社長ら逮捕」

(2)『神奈川新聞』2005年9月18日付25面「遠隔監視システム 有害図書の収納で摘発」

(3)『日本海新聞』2006年9月5日付2面「有害図書販売規制の盲点」

※小林節・慶大教授による論説

(2007/4/13 07:40)

 

【関連記事】 ※「有害」規制監視隊が確認したもののみ。

(1)『東京新聞』2004年9月22日付「有害ゲーム規制検討 愛知県 暴力場面多いソフト」

(2)『中日新聞』2005年1月13日付1面「ゲームソフトに有害指定 愛知県 青少年条例改正へ 全国初」

(3)『読売新聞』(愛知版)2005年2月2日付25面「ゲームソフト有害図書類指定も 青少年保護条例改正案 入れ墨ファッションも禁止」

(4)『中日新聞』(名古屋版)2005年6月30日付22面「18歳未満の青少年対象 23時からの夜遊びダメ 東署 コンビニ店に啓発ポスター」

 

【関連リンク】

青少年条例と古物営業法による買取り規制の主な動き ―規制を求める出版業界―

残虐な場面を含むゲームソフトの「有害」指定にかかわる主な動き


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