■「有害」規制ニュース

ゲームソフトの「有害」指定 規制を誘発するマスコミ

 残虐性を理由にゲームソフトの「有害」指定が行われようとしている。暴力シーンの多いテレビゲームソフトの規制を検討していた愛知県は2005年3月、知事の指定した業界団体が青少年に不適当とした図書類を「有害図書類」とする団体指定方式を導入し、神奈川県は審議会の審査結果に基づいて知事が指定する個別指定を2005年5月に行う予定だ。団体指定の採用には慎重な意見があり、個別指定についても審議会の運営方法など問題点は多いのだが――。

 

「慎重な対応が必要」

 愛知県が導入した団体指定では、知事がテレビゲームの業界団体を指定した場合、その団体によって「18歳以上対象」と判定されたテレビゲームは「有害図書類」となる。このような規制方法は既に10道府県で実施されているものの、平成16年度第2回愛知県青少年保護育成審議会の会議資料によると、「ビデオ、DVD、パソコン関係団体が指定団体とされた実績は全国でもあるが、ゲームソフト業界を指定団体に指定している県はない」という。

 

 一方、団体指定方式の採用には慎重な意見もある。たとえば、岐阜県青少年育成審議会は2004年11月にまとめた答申で、「有害図書類の迅速な指定を行う方策のひとつとして、業界団体自体を指定して、業界が指定したものを有害図書類とする団体指定方式について審議したが、行政が罰則規定をともなう有害図書類の指定を行う以上は、基準が曖昧であってはならないことから、その採用については慎重な対応が必要である」と提言している。

 

 現在、テレビゲームについては、特定非営利活動法人コンピュータエンターテイメントレーティング機構(CERO)がソフトの格付けを行っている。行政が直接指定する個別指定の基準とCEROの基準のどちらが曖昧かは判断が分かれるかもしれない。しかし、CEROの審査結果と年齢区分表示は購入の目安であり、青少年への販売禁止義務などが生じる「有害」指定とは本質的に異なる。そうした違いもある以上、審査結果が「有害」指定に直結することには疑問が残る。

 

指定実績がない理由

 神奈川県が予定している個別指定では、県職員が選定したゲームソフトを県の設置した審議会が審査する。審議会が「有害図書類」に指定すべきだと答申した場合、ゲームソフトの名称、メーカーが告示され、販売店などにも通知される。個別指定は青少年条例を持つ全ての都道府県で導入されており、平成15年度第3回神奈川県児童福祉審議会社会環境部会の会議資料によると、愛知県と北海道ではゲームソフトを個別指定した実績があるという。

 

 この資料は残虐性を理由にゲームソフトの個別指定を検討していた神奈川県が2003年9月、「有害指定実績の有無」「指定に係る根拠規程等」「審議会諮問の有無及び審議方法」「有害指定以外の取組」を各都道府県に照会し、その回答をもとに作成されている。指定実績がない理由も記載されており、「業界の自主規制を尊重」(東京都)、「業界(ソフ倫)による自主規制がされている」(大阪府)など自主規制を考慮したものと、「県民からの要請がない」(福岡県)などの答えが目立つ。

 

 また、「法的規制まですべき案件なし」(兵庫県)、「粗暴性・残虐性に係る判断が困難」(香川県)など、条例の運用に慎重な回答や、「ゲームソフト数が膨大で内容把握が困難」(島根県)、「審議会委員から現時点まで問題となるような議論が出ていない」(奈良県)といった答えもあった。このほか青少年条例を制定していない長野県の欄には、「条例がなく、該当する事項がない」とある。「検討課題となっている」と答えたのは、山梨県(と神奈川県)だけ、という状況だ。

 

<ゲームソフトの個別指定実績>

都道府県名

年度

指定件数

審議方法

 

備考

宮崎県

平成4年度

1

解析写真集を審議会で回覧

 

性的内容

愛知県

平成4年度

2

該当箇所の写真回覧等

 

内容は不明

北海道

平成15年度

1

テレビ画面等に写し出し審議

 

性的内容

 湯浅俊彦「『青少年条例』規制その後各地で・・・」『総合ジャーナリズム研究』第149号(1994年)および平成15年度第3回神奈川県児童福祉審議会社会環境部会資料「各都道府県における有害ゲームソフトの指定等の状況一覧表」をもとに作成。なお、神奈川県の資料では、宮崎県の指定実績が「無」になっている。

(2005/3/28 06:45)

 

規制するマスコミ人

 では、神奈川県が規制を検討し始めたのはなぜだろうか。資料に記載された調査目的によると、「昨今の凶悪な少年事件については、有害(特に残虐性・粗暴性を甚だしく誘発・助長するおそれのある)ゲームソフトとの関連性がマスコミ等から指摘されている」ことから、「有害ゲームソフトの指定等に係る検討を行うに当たり、各都道府県における有害指定等の状況を把握するため調査を行」ったという。額面通り受け取るなら、マスコミが規制を誘発・助長したといえる。

 

 もっとも、報道による指摘、という間接的なレベルにとどまらず、新聞社やテレビ局などの一部マスコミは、「有害図書類」の審査、判定などを行う審議会に委員として参加し、公的規制のプロセスに組み込まれている。たとえば神奈川県が1999年10月に鶴見済『完全自殺マニュアル』(太田出版、1993年)を“解釈指定”(注1)したさい、指定を決めた神奈川県児童福祉審議会文化財部会には、平松雄造・神奈川新聞社写真部長兼論説委員が委員として出席していた。

 

 さらに、2003年11月の第524回東京都青少年健全育成審議会では、会長代理の瀬戸純一・毎日新聞社論説委員が個別指定の強化を促し、結果的に小委員会を常設とするなど、個別指定が強化されている。そして2004年11月の平成16年度第3回神奈川県児童福祉審議会社会環境部会では、東京都のこうした動きを踏まえ、「本県においても書籍等の個別名称が公表できる個別指定のあり方も再検討の必要がある」という取り組みが提起されている。

 

注1 神奈川県の条例では、指定事由に「自殺」が明記されていない。このような『完全自殺マニュアル』に対する“解釈指定”の実態は、長岡義幸「『完全自殺マニュアル』拡大する規制の動き」『創』1999年12月号、96-103頁が詳しい。

 ただし、「有害図書類」の指定事由に「自殺」を追加することにも問題がある。たとえば大阪府は、府青少年問題協議会の委員から「有害図書類としての取扱いについては、犯罪の方法を詳細に記した図書類と自殺の方法を詳細に記した図書類とでは、委員の中でも意見が異なった。犯罪の方法を詳細に記した図書類と比べて、自殺の方法を詳細に記した図書類が直接自殺に結びつくとも言い難い」「犯罪を誘発する本や自殺の方法を詳細に記した本を子どもから規制で隠すのは、いたちごっこだと思う。幼い頃から、子どもにそれらを見せて、それらを題材に議論する教育方法が青少年の育成環境としてよいと考える」などの意見が出たため、指定事由に「自殺」を追加することを見送っている。

 なお、青年期自殺との関連からこの問題を考えるには、黒木俊秀、田代信維「『完全自殺マニュアル』を愛読する青年たち」『臨床精神医学』第27巻第11号(1998年)、1469-1475頁が参考になる。

 

マスコミの役割とは

 個別指定の定義は包括指定よりも概括的である(注2)。また、包括指定と異なり、性表現に限らず、様々な表現を規制することが可能だ。2003年7月の平成15年度第2回神奈川県児童福祉審議会社会環境部会において、青少年課長が「ゲームソフトなどの中に残虐性のあるソフトがございます。これは、図書類ということで規制はできますけれども、包括指定ができません」「個別指定することについて当部会でご審議をしていただくことも考えています」と述べているのはこのためだ。

 

 また、審議会については、委員の人選など運営方法に問題がある(注3)。たとえば、ジャーナリストの原寿雄氏は『ジャーナリズムの思想』(岩波書店、1997年)で、「審議会は各界有識者の意見を広く政策作りに反映させる建前だが、実態を見れば人選から答申案作りまですべて官僚主導で進められている場合がほとんどのようで、民主主義の偽装といっても過言ではない。「政策作りには十分世論を反映しています」という形で、マスコミ人が利用されていることは歴然としている」と批判している。

 

 団体指定個別指定、審議会……マスコミはこうした制度の問題点を指摘してきただろうか。むしろ、報道内容を規制強化に利用され(注4)、委員としても利用されてきた側面の方が強いのではないだろうか。愛知県、神奈川県だけでなく、大阪府や岡山県などでもゲームソフトの規制が検討されている(注5)。また、神奈川県の知事は5月の首都圏サミットで東京都や埼玉県、千葉県にゲームソフトの規制共通化を呼びかける方針だ。規制強化の流れのなか、マスコミの役割が問われている。

 

注2 たとえば淺野博宣・神戸大助教授は、個別指定の定義について、「包括指定に比べより概括的」(淺野博宣「パソコンゲームソフトの有害図書類指定」『法学教室』第246号別冊付録、8頁)と指摘している。実際、包括指定を導入している県は、「有害」規制監視隊の意見に対し、「包括指定の基準に至らない図書類については、従来どおり「個別指定」により行うこととしております」(秋田県)、「包括指定の基準は、個別指定の基準から、より限定して定められています」(鳥取県)と回答している。

 

注3 審議会の運営改善策としては、たとえば加藤寛千葉商科大学学長(元政府税制調査会会長)は『朝日新聞』2004年10月18日付朝刊で、「委員の人選は役所が密室で決めている。正式決定する前にホームページなどで発表し、その人を選ぶ理由や経歴を公開するべきだ。一般の意見を募り、反対意見があれば反映する制度にして初めて、幅広く意見を聞くという審議会の本来の姿になる」と述べている。

 

注4 利用されるというより、マスコミが率先して規制強化を押し進めた可能性もある。ゲームソフトの規制と直接的な関連はないが、マスコミによる規制強化キャンペーンについては次の文献が参考になる。

(1)諸橋泰樹「コミック本規制の構造と報道の陥穽」『「有害」コミック問題を考える』創出版(1991年)

(2)長岡義幸「『完全自殺マニュアル』悪書キャンペーンの陥穽」『創』1999年11月号

(3)西河内靖泰「「有害図書」問題と図書館の自由」『図書館評論』第42号(2001年)

 

注5 『読売新聞』(大阪版)2005年3月8日付夕刊1面「残虐ゲームソフト規制検討 「表現の自由」めぐり反発も」という記事によると、大阪府は8日、残虐なゲームソフトの青少年への販売などを規制する方向で検討を始めたという。なお、大阪府青少年問題協議会は2005年2月、「青少年健全育成条例のあり方に関する提言」を大阪府に提出している。この提言では、「残虐な場面を含む図書類の規制」という項目で、「ゲームソフトメーカーなどでは、自主規制団体を組織し、購入の目安となる年齢区分表示を商品に付するといった対応もなされている」ことなどを挙げ、「有害図書類としての指定に係る基準の再検討、あるいは自主規制団体の審査に基づく年齢区分に準じて包括的に有害図書類とみなせるようにするなど、より実効性のある規制のあり方を検討すべきではないか」と指摘している。

 一方、『朝日新聞』(岡山版)2005年3月11日付28面「残虐シーン含むゲームソフト規制強化 知事が検討示す」という記事によると、岡山県の知事は10日の県議会で残虐なゲームソフトの規制について検討する考えを示したという。

 

【関連リンク】

▼愛知県青少年保護育成審議会のご案内

http://www.pref.aichi.jp/syakaikatsudo/hogo-index.html

▼神奈川県児童福祉審議会社会環境部会の概要

http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/seisyonen/jihukusin/bunkazai/index.htm

▼岐阜県青少年育成審議会

http://www.pref.gifu.lg.jp/pref/s11122/singi/index.htm

▼東京都青少年健全育成審議会 会議資料・議事録

http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/index9files/singi_set.htm

▼大阪府青少年問題協議会の最近の開催状況

http://www.pref.osaka.jp/koseishonen/seimonkyo/saikin.html

残虐な場面を含むゲームソフトの「有害」指定にかかわる主な動き

(2005/3/30 07:25)


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