■「有害」規制に関する用語集

 

包括指定

<包括指定の概要>

 「有害」図書指定方式の一つ。「卑わいな姿態等」を被写体とした写真、描写した絵、場面が全体の5分の1、20ページ以上、合計3分超といった基準に達している図書類については、審議会で審査することなく、また、具体名を示すことなく、自動的に「有害」図書類とみなす制度。平成16年4月現在、東京都と青少年条例を制定していない長野県を除いた45道府県で導入されている。

個別指定 緊急指定 団体指定 例示通知

 

<包括指定の流れ(図書類の場合)>

(1)図書類のうち、一定の基準に達しているものについては、審議会で審査されることなく、「有害」指定されたものとみなされる。

(2)「有害」図書類とみなされた図書類は公報で告示されず、販売店などへも通知されない。ただし、包括指定に該当するか否かの判断を助けるためだとして、書店・コンビニなどに基準となる図書類を通知する自治体もある。→例示通知

(3)「有害」図書類とみなされた図書類は、青少年への販売などが禁止されるほか、区分陳列義務や自販機への収納禁止義務などが課される場合もある(規制の内容は道府県により異なる)。

(4)販売店などが「有害」図書類とみなされた図書類を青少年に販売または貸付け、あるいは区分陳列義務や自販機への収納禁止義務などに違反し、青少年課による口頭や文書による指導にも従わないときは、経営者らが逮捕されることもある(罰則は道府県により異なる)。

 

<包括指定の特徴(図書類の場合)>

(1)個別指定と異なり、「有害」指定された図書類の具体名が示されない。

(2)個別指定と異なり、「卑わいな姿態等」(性表現)のみを「有害」指定の対象としている。

(3)個別指定と異なり、写真や絵(ビデオなどの場合は場面)のみを「有害」指定の対象としている。

(4)分量による基準があるため、個別指定の対象となる図書類のうち、一部の図書類が指定の対象となる。

(5)理論上の指定図書類が多い反面、販売店などが条例を遵守するには、包括指定の基準に該当するか否かを自ら判断しなければならない。全ての図書類をチェックすることは現実的には不可能であり、青少年への販売禁止、区分陳列などの徹底は困難となっている。

(6)一部の県では、知事の指定した業界団体が青少年に「不適当」としたビデオテープなどを「有害」図書類とみなす規定を設けている。→団体指定

※包括指定の詳しい内容は次のページで確認できる。

▼青少年条例による「有害」規制の状況一覧

http://hp1.cyberstation.ne.jp/straycat/watch/data/jyourei/ichiran/index.htm(「有害」規制監視隊)

 

<指定方法ごとの規制範囲のまとめ(図書類の場合)>

(1)対象となる表現

  個別指定 包括指定

団体指定

性表現

指定団体の審査基準による
暴力表現など

指定団体の審査基準による

(2)対象となる表現形式等

  個別指定 包括指定

団体指定

写真、絵

文章

場面(ビデオ、ゲーム)

分量基準(下限)

なし

あり

指定団体の審査基準による

※出版界の業界団体が指定を受けた場合は含まれる可能性がある。なお、東京都は出版業界などの自主規制団体に対し、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」第8条第1項第1号の東京都規則で定める基準に該当する図書類について、18禁表示の努力義務を課している。

【関連リンク】

個別指定は包括指定よりも「理想的」なのか

規制強化を招いた規制反対運動

 

包括指定が適用され、経営者らが逮捕されたケース

1.2001年12月に青少年条例を改定し、包括指定を導入した鳥取県では、翌年4月1日から新条例が施行された。『日本海新聞』2003年1月15日付「わいせつビデオ、自販機に収納 県外の3業者逮捕 有害図書包括指定の導入後初 鳥取県警」や『山陰中央新報』2003年1月15日付「自販機に有害ビデオ 販売業者ら3人逮捕 鳥取県警など」などの記事によると、包括指定に該当するビデオテープを自販機に収納したとして2003年1月、自販機業者が逮捕されている。

 

2.2002年9月に青少年条例を改定し、包括指定を導入した長野市では、翌年4月1日から新条例が施行された。『信濃毎日新聞』2003年10月16日付「市条例違反容疑で逮捕 長野の店主 貸出機に有害図書」という記事によると、包括指定に該当するビデオテープを自動貸出機に収納したとして2003年10月、レンタルビデオ店経営者が逮捕されている。

 

<包括指定について考えるための参考文献>

(1)総合ジャーナリズム研究特別取材班「規制強化!大阪“落城”の軌跡 1」『総合ジャーナリズム研究』第140号(1992年)、95頁-101頁

(2)清水英夫・秋吉健次編『青少年条例 自由と規制の争点』(三省堂、1992年)

(3)安部哲夫「ドイツにおける青少年有害図書規制と連邦審査会」『獨協法学』第55号(2001年) 79-95頁

(4)長岡義幸「条例による規制強化を黙認する出版業界」『ほんコミニケート』第179号(2002年)、6‐7頁

(5)安光裕子「有害図書規制の現状と課題」『図書館学』2002年3月号 20-27頁

(6)橋本健午「『始めに規制ありき』か? 不健全図書『包装義務化』条例に異議」『新文化』2004年2月12日、1面

 

(1)は、『総合ジャーナリズム研究』に8回(番外編を含む)に分けて掲載されたものの第1回。全8回を通じ、大阪府が「有害」図書指定制度(個別指定、緊急指定、包括指定)を創設するまでの経緯や条例の運用状況がレポートされている。

(2)には、青少年条例の内容や関連する判例などが収録されている。

(3)は、ドイツと日本の「有害」図書規制制度を比較し、日本の包括指定を批判している。

(4)は、全国各地で包括指定の導入や罰則の強化が行われているにもかかわらず、出版業界が沈黙していることに疑問を投げかけている。

(5)は、山口県青少年健全育成条例の変遷をまとめるとともに、包括指定の問題点を論じている。

(6)は、包括指定の導入などを検討していた東京都青少年問題協議会の答申について論じている。

 

【更新履歴】

2004/4/25 用語集に「個別指定」を追加

2006/4/20 概要の説明文を一部修正


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